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2010年2月13日(土) 日本獣医内科学アカデミー・ランチョンセミナー「明日出会うかもしれない血液疾患 関東でも油断できないバベシア感染症」日本大学 生物資源科学部 総合臨床獣医学研究室 教授 亘 敏広先生

2010年2月13日(土)、日本獣医内科学アカデミーにおいて、「関東でも油断できないバベシア感染症」と題して、亘 敏広教授(日本大学 生物資源科学部 総合臨床獣医学研究室)にご講演いただきました。本稿では、その講演内容をダイジェストとしてご紹介します。

西日本が流行地域という認識は今や昔 流行地域が拡大する犬バベシア症
亘 敏広先生

講演される亘 敏広先生

日本大学動物病院へ紹介された犬バベシア症例拡大表示する

亘教授が大学を卒業した当時(1986年)は、「関東から見て箱根の山、あるいは鈴鹿の関を越えると、バベシアがいる」と、先生からよく教えられたという。つまり、西日本(紀伊半島以西)では犬バベシア症を診断する機会が増える、というわけである。しかし、「ライフスタイルが変化し、車でキャンプ場やドッグランに出かけるなど、飼い主とペットが一緒に遠出する機会が増えた今、これまでの認識をあらためなければいけない症例や調査が、多数明らかになっている」と、指摘する。

その実例として、犬バベシア症に関するいくつかの疫学調査を例に挙げた。
1つは、関東以北の犬バベシア症(B.gibsoni)感染を疑う犬115頭を対象とした調査(Miyama, 2005)である。この調査によれば、115頭のうち青森、福島、茨城、群馬、千葉、東京、神奈川の7都府県の29頭が、PCRもしくはELISAで陽性を示したという。ただし、陽性犬には闘犬が多く含まれており、マダニ寄生歴が明らかなものは3例だけということから、マダニとは別の要因が関与していると考えられている。(*1)

上記の調査だけでは、本当に東日本の犬バベシア症の感染が広がっているのかは分からない。もう1つの調査として、闘犬以外の犬を対象に犬バベシア症(B.gibsoni)の抗体保有状況を全国的に調べた調査(小西, 2006)が紹介された。この調査によれば、29都道府県の犬から計1,007検体の血清を収集し、130頭(12.9%)が抗体陽性を示したという。抗体陽性犬は西日本だけでなく、北海道、宮城、福島といった関東以北、あるいは栃木、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、静岡、山梨でも認められたという。(*2)

日本大学動物病院(神奈川県藤沢市)は、従来でいえばバベシア症の流行地域ではない。だが、夏休みに飼い主と西日本を旅行してきた犬が、帰宅後に犬バベシア症を疑われる症状を示し、同病院を紹介受診する例がほぼ毎年のように見られるという。さらには、神奈川県内でのバベシア感染が断定された症例(*3)も確認されている。

*1,*2 参考文献:infovets 2008.4 *3 神奈川県横須賀市で飼育されていた、当時5カ月齢のトイプードル。西日本への旅行歴はなく、外出といえば県内西部(西丹沢)のキャンプ場に出かけた程度。帰宅約10日後、元気消失、食欲不振、さらには嘔吐も見られるということで、近所の病院の診察を受けた。発熱・貧血も認められ、内科療法が取られたが 改善しないため、紹介を受けて来院。詳しく調べると、血液検査で赤血球中にB.gibsoniが認められ、PCRでもバベシアの感染が確認された。

貧血症例に潜む 犬バベシア症の臨床症状と発見、診断

犬バベシア症は、溶血性貧血、発熱、血色素尿(茶色の尿)、黄疸、元気消失、食欲不振、沈うつ、虚脱など様々な臨床症状が認められる。しかし、免疫介在性溶血性貧血などでも同様の症状が見られることから、「犬バベシア症の非流行地域では(犬バベシア症が)貧血の鑑別診断リストの上位に位置されず、診断が遅れる一因となっている」と懸念。「貧血を呈している場合、発症の2~3週間前に西日本への旅行歴がないか、キャンプ場やドッグランなどマダニに晒される可能性のある場所に連れて行ってはいないかを、必ず飼い主に聴取するべき」と、自身の経験から犬バベシア症を念頭に置いた問診の必要性を訴える。

犬バベシア症の診断ではまず血液検査を行う。検査では貧血の状況を把握するとともに、血液塗抹標本を作製し、貧血の原因を探る。つまり、赤血球内の虫体の確認が重要である。その際には油浸レンズを用いて高倍率で見ることが必要であるという。
「少数寄生であるほど虫体の検出は難しい。また、良好な染色を行い、充分評価できる標本を作製できなければ、染色液のゴミと虫体を鑑別することは困難となる。犬バベシア症が疑わしいにもかかわらず、それでも虫体が検出出来ない場合は、PCRや抗体検査の実施を推奨したい。敷居の高いイメージがあるが、最近ではPCRや抗体検査を実施できるコマーシャルラボが増えている。診断の裏付けとして重要な意味を持つので、ぜひ利用を」とコメントしていた。

特効薬はない?! 犬バベシア症の治療と留意点

犬バベシア症の治療では、古くからジミナゼン アセチュレートが使用されている。しかし、本薬剤はB. gibsoni に対する抑制効果はあるものの、完全な原虫駆虫には至らないという。さらに「ジミナゼンア セチュレートは蓄積性の毒性を有するため、投与量が多くなると小脳出血などによる神経症状や肝障害、腎障害などの副作用が起こる可能性がある」と、注意も喚起する。また、この他に2つの治療法を紹介。同時に留意点についても言及している。

犬バベシア症の予防は、いかにマダニの咬着を防止するかが重要

犬バベシア症を含む多くのマダニ媒介性疾患は、吸血後ある程度の時間(約2~3日)が経たなければ動物に感染しないと考えられ、マダニを早期除去することで予防が可能であるといわれてきた。しかし最近の論文では、「吸血中のマダニが宿主動物を離れて別の動物に移動した場合、原虫等の伝播時間が短縮される(通常より早く感染する)可能性がある」ことが示唆されている。つまり、愛犬の体表に吸血マダニを見つけ、翌日に除去した場合でも感染の恐れがあるというわけである。

亘教授は、「犬バベシア症の予防は“マダニに吸血されないこと”が第一。マダニがいる場所へ出かける場合には、現実的な予防策として“マダニ忌避効果”のある薬剤が望まれる」と話し、咬着防止効果のあるノミ・マダニ駆除薬「フォートレオン®」の有用性を解説。こうした犬バベシア症を発症させない方法を試みることが、犬バベシア症の脅威から飼育犬を守るために重要であるとの見解を示した。

またバベシア症予防で注意すべきは、「輸血」であるという。犬バベシア症は感染犬の血液を輸血してしまった場合にも感染が成立する*。そのため輸血に使うドナーは、必ずバベシア陰性でなければならないという。「犬バベシア症に感染した犬が治療で回復しPCRで陰性になった場合でも、この犬の血液を輸血に使用すると感染してしまう可能性がある」と指摘し、警鐘を鳴らす。

*輸血以外にも、闘犬などでは咬傷による直接感染も起こる

終わりに

多くの聴講者でほぼ満席となった今回の講演では、一貫して犬バベシア症が決して油断できない感染症である点を、次の3つの点を踏まえて解説していた。

  1. (1)ライフスタイルの変化によって、犬バベシア症が全国的に発症する可能性がある。
  2. (2)犬バベシア症は診断および治療が難しい。
  3. (3)よって予防が重要となる。

最後に亘教授は、「これからは感染症に対する獣医師の意識の変化が何より必要である」と語り、講演を締めくくった。

こぼれ話
「関西は西日本??」

亘教授は、問診時に「関西への旅行歴は?」と聞いて失敗されたことがあるそうです。よく話を伺ってみると、「関西ではないが、四国には行きました」とのこと。確かに「関西」というニュアンスには、四国や中国、九州地方は含まれません。以来、より広い意味の「西日本」という言葉を使うことにされたそうです。皆様もどうかご注意を。

セミナーにご参加いただいた先生に聞きました 犬バベシア症アンケート結果