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2011年3月4日(金)バイエル薬品株式会社&株式会社 沖明 共催CVBDセミナー「マダニ類の吸血機構および犬の節足動物媒介性疾患」サエキベテリナリィ・サイエンス 佐伯 英治先生

2011年3月4日(金)、沖縄コンベンションセンター(沖縄県宜野湾市)において、「マダニ類の吸血機構および犬の節足動物媒介性疾患」と題して、獣医臨床寄生虫学の第一人者である佐伯英治先生のセミナーが開催されました。本稿では、その講演内容をダイジェストとしてご紹介します。

ペットに寄生するマダニの種類

現在、日本には8属47種類、未明名の約10種類も含めると、約60種類のマダニが分布している。このうちペット(犬・猫)に寄生が認められたマダニは6属21種類。このなかで犬に好適なマダニは、ツリガネチマダニとクリイロコイタマダニの2種類である。特に沖縄をはじめ九州~本州の一部にかけて分布するクリイロコイタマダニは、バベシア症や各種リケッチア症などの媒介性疾患をもたらすために問題となる(後に詳述)。

「クリイロコイタマダニは乾燥に強く、犬舎や屋内に侵入して繁殖することがある(通常、マダニは乾燥に弱いので屋内での繁殖は出来ないとされている)。また、犬だけでなくヒトも刺咬するので注意が必要だ」と、佐伯先生は指摘する。

マダニの吸血様式と病原体の伝播

右の写真左側は、カモシカマダニの吸血時を撮影したものである。カモシカマダニは比較的原始的な種で、長い口下片(こうかへん)や鋏角(きょうかく)を持ち、それらを動物の皮膚に刺し込む。たとえばフタトゲチマダニは、唾液と一緒にセメント質の物質を分泌し、刺咬部分を固めて宿主から抜け落ちないようにする。しかし、カモシカマダニは長い口器を深く刺し込めるため、セメント質を分泌せずとも抜け落ちないという特性を持っている。いずれにせよ、吸血状態のマダニは引っぱっても簡単には抜けない。無理に引き抜こうとすると、口器が皮膚に残ってしまい、硬結や化膿の原因になる。

吸血性節足動物の吸血様式は、2種類に分かれる。ひとつは毛細血管に口器を直接挿入して吸血するタイプ(Vessel feeder, solenophage)で、蚊を含む多くの吸血性節足動物はこの方法で吸血を行う。もう一方が、宿主の皮膚組織・血管を破壊し、脈管外に形成された滲出液の貯溜物(Blood-pool)を吸い上げるタイプ(Blood-pool feeder, telmophage)で、ほぼすべての吸血性ダニ類はこの方法で吸血を行う。マダニの吸血様式もこのタイプである。

なお、マダニは吸血時、吸い上げた血液を凝固させない成分を含んだ唾液を排泄しながら吸血を行う。このときマダニは中腸で血液を細胞内消化するが、余分な血液の血漿成分は唾液、消化物は嘔吐によって宿主に環流される。「(宿主にとってみれば)それが余計で、宿主に戻される分泌物に病原体が含まれていれば感染が伝播する。つまり病原体の媒介が起こる」(佐伯先生)という。

マダニ媒介性疾患の代表「犬バベシア症」

マダニが多くの病原体を媒介することは既知のとおりである。ペット(犬)におけるマダニ媒介性疾患の代表といえば、西日本ではバベシア症である。バベシア症はバベシア属(ピロプラズマ目)の吸血性原虫によって引き起こされる溶血性の疾病で、ピロプラズマ症とも呼ぶ。犬のピロプラズマはバベシア属が5種、タイレリア属が4種報告されている。

ただし、バベシアの分類は一昔前とは様変わりしている。日本では沖縄のみに分布するといわれてきたバベシア・カニス(Babesia canis)は、今ではバベシア・カニス・ボゲリ(Babesia canis vogeli)という亜種のひとつに分類されている。このバベシア・カニス・ボゲリ(Babesia canis vogeli)は、犬に感染する3種類の主要な大型バベシアのなかでは、最も病原性が低い。犬における媒介動物は、クリイロコイタマダニである。

一方で、四国・九州を含む本州に分布するのが、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)である。これまではアメリカに分布するものも同じ種とされてきたが、現在はアメリカ株とアジア株(日本)のバベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)は、異なる種に分類されている。日本に分布するバベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)の、犬における主要媒介動物はフタトゲチマダニである。

バベシアとマダニの生活環

バベシア(Babesia gibsoni)とマダニ(フタトゲチマダニ)の生活環は、次のとおりである。

  1. 1.感染犬の血液を成ダニが吸引、同時にバベシア虫体も吸引される
  2. 2.成ダニの体内に入ったバベシア虫体が有性生殖を行い、発育ステージが進む
  3. 3.飽血した成ダニが卵巣を介して移行した虫体を含む卵を産む
  4. 4.感染した卵がふ化、幼ダニへ
  5. 5.幼ダニが未感染犬に寄生し、唾液とともに新しい宿主に移行して感染犬に

4.と5.で示すように、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)は経卵(巣)感染をして、虫体をもった幼ダニが未感染犬に感染を伝播する可能性がある。ただし、幼ダニは吸血時間が非常に短いことから、感染が成立する可能性は比較的低いと考えられる。「病原体伝播の可能性は、マダニが宿主に寄生・吸血する時間の長さが重要。マダニがすぐに病原体を媒介するわけではない」(佐伯先生)という。